なべはるの人事徒然

フィードフォース人事の中の人。採用、教育、評価制度、組織活性など、日々考えていることを綴ります。現在人事で働いている方、人事の仕事に興味のある方、就職活動中の学生などに読んでいただけたら幸いです。

学生支援の甘いワナ

あふれる学生支援

就職活動が長期化複雑化する中で、学生支援団体や企業・個人が増えています。

<街なかのキャリアセンター キャリぷら の紹介記事>

キャリぷらのように就職活動やキャリアの相談に乗ってくれる施設や「内定塾・就活塾」といったセミナー型の支援、社会人との接点をつなぐ個人や団体など様々な学生支援が存在しています。

将来の進路や就職に悩んでいる学生を導き、解決のヒントを与える…活動自体はもちろん素晴らしいのですが、気をつけていないとハマってしまうワナがあると考えています。

それは、「学生支援をしていると支援者の成長が止まる、あるいは鈍化しやすい」ということです。

学生支援を行っている方に悪感情があるわけでは全くなく、自分自身が一度陥ってしまったワナなので自虐の意味も含めて共有・公開しようと思った次第です。

学生支援の定義

学生支援にも色々ありますが、ここでは生計の立て方が下記のいずれかの場合とします。

  • 学校からお金をもらう
  • 学生からお金をもらう
  • 無償、ボランティア

上記の他に、「企業からお金をもらう」という選択肢もあるかと思いますが、それはマッチングによる人材ビジネスであって本ブログでいうところの学生支援の趣旨とは異なるので除外しています。

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学生支援者の成長が止まりやすい4つの理由

いよいよ本題です。何故学生支援をしていると成長が止まる、あるいは鈍化しやすいのか。それは、学生支援ならではの環境に理由があります。

対象が毎年入れ替わる = 成長の鈍化に気づきにくい

就職活動を行う学生というのは基本的に毎年変わります。つまり、1年ごとに対象がリセットされ、相手にするのは就職活動やキャリアに関する初心者のみとなります。

これはビジネスの現場からするとかなり特殊です。BtoBであれば顧客はころころ変わったりしませんし、BtoCであっても顧客も商品のことを調べてきていますので、こちらが勉強不足で的外れな発言をしようものなら、厳しく指摘されます。

学生支援の場合はこういった緊張関係が基本的に成立しません。対象となる学生は常に就職活動や面接の素人。仮にこちらが少しばかり間違ったことを言っても、そんなものかと納得されてしまいます。このような環境下だと、よっぽど気をつけていないと新しいことを貪欲に吸収しなくなってしまいます。

成果を求められない、成果を測りにくい = 内省の機会を得づらい

就職活動というのは基本的に正解がありません。

その学生の能力、これまでの経験、志向性、志望業界や企業の採用意欲、求める素養など、様々な要素が複雑に絡んできます。

仮に「出会った学生の就職活動を成功させる」ことを成果として設定したとしても、何をもって成功とするのか、成功したとしてもそれは支援者のおかげなのかは全く分かりませんし、そもそもそこまでシビアな成果の設定はされません(シビアに成果を設定するべきでもないでしょう)

「受講学生の60%以上を偏差値60以上の大学に合格させる」など具体的で分かりやすい目標設定ができる塾・予備校講師とはこの点が大きく異なります。

成果を具体的に求められないため、通常のビジネスの現場で行われる内省の機会が得づらいのが、学生支援者が成長しづらい理由の2つ目です。

支援を必要とする人だけが学生支援の対象となる = 刺激を受けにくい

当たり前のことを言っていますが大事なポイントです。

通常の学生支援は、支援が必要な人が対象です。逆に言えば、学生支援者は支援が必要でない人には会うことはできません。

支援が必要な人、必要でない人がそれぞれどういう人かを乱暴に分けると下記のようになります。

支援が必要な人=就職活動がうまくいっていない、自分に自信がない

支援を必要としていない人=就職活動がうまくいっている、自分に自信がある、世間的に見て優秀層

 つまり、学生支援者が接する学生のほとんどが、就職活動がうまくいっていないか自分に自信がない人です。逆に言えば、(あまり好きな言葉ではないですが)いわゆる優秀層とは中々出会えません。そもそも彼らは支援を必要としていないですから。

人の成長には、間違いなく普段接する人からの影響が大きいです。

ものすごく優秀で志が高く、努力を惜しまない人と接していると自分も刺激されて努力するようになります。

学生支援者は必然的に「この人すごいな!」という人と接する機会=刺激を受けて成長のきっかけとする機会が少なくなってしまうのです。

学生の相談に乗ることは気持ちいい = 無自覚のうちに自身の努力に目がいかなくなる

最後に、これも冗談ではなく大事なことです。

学生の就職相談に乗ったことのある方なら気持ちが分かるのではと思いますが、学生の相談に乗るのは気持ちいいです、ものすごく。

学生の悩みを聞き、自分なりの経験や知識をもとにアドバイスなり考える視点なりを提供する…相談に来るほとんどすべての学生は自分より知識も経験も少ないですから、とても熱心に自分の話を聞いてくれて、お礼まで言われる。後日、学生が「おかげで面接合格しました!ありがとうございます!」と報告に来てくれる…。

承認欲求、対話欲求、貢献欲求…様々な欲求が同時に満たされますので、気持ちよくて当たり前です。

少し意地の悪い言い方をすると、支援者に大した能力や経験がなくても、学生から見ると「社会に出ているすごい人」に見えるので、普段の仕事は全然うまくいってなくとも学生支援では上記のような欲求が満たされてしまいます。

支援者の欲求が満たされ、かつ学生のためになっているので、これ自体に問題があるわけではありません。しかし、上記にあげている他の理由と組み合わさると、支援自体が気持ちいいばかりに自身の成長に力を向けづらくなってしまいます。だってそんな努力しなくても支援は気持ちいいから(私自身そんな経験があります)

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ワナに陥らないために

繰り返しになりますが、学生支援をしている方に悪感情があるわけでも特定のどなたかを批判したいわけでもなく、学生支援は成長を止めやすい特殊な環境であることを言いたいわけです。

こういったワナに陥らないようにするために色々と心がけることはありますが、一番は、

すごい学生と定期的に会う

ことだと考えています。

自ら考え行動しているすごい学生は山ほどいますが、学生支援の場では中々会うことができません。

自分から機会を作って、すごい学生がいる場所に赴き、刺激を受けましょう。

そこで、「学生の割にはすごいな」とか「将来が楽しみだな」などの上から目線の感想が出てくるようでは黄信号です。学生支援のワナにハマりつつあります。

世の中には、ハタチそこそこでも既に我々一般人の枠を大きく超えた能力や経験を積んでいる学生がたくさんいます。そうした学生に出会い、「何だこいつすげえ!ちくしょう、負けるかこんにゃろ!」とライバル視できるようになるのが健全だと思います。

 

というわけで、明日もすごい学生に出会いに行ってきます!