なべはるの人事徒然

フィードフォース人事の中の人。採用、教育、評価制度、組織活性など、日々考えていることを綴ります。現在人事で働いている方、人事の仕事に興味のある方、就職活動中の学生などに読んでいただけたら幸いです。

通勤手当は何のため?福利厚生の意味を考えてみた

全ての人事施策は会社と従業員のコミュニケーションツール

皆さんの会社にはどんな人事制度・福利厚生があるでしょうか?

最近はユニークな制度や福利厚生を作る企業も多いようで、魅力的な福利厚生がある会社に入りたい!という人も増えてくるかもしれません。

a-mp.jp

当たり前ですが、福利厚生はタダではありません。費用がかかっています。会社は営利団体ですから、費用をかけるからには何らかの意図があります。言い換えると、法定以上の福利厚生を提供するということは、会社から従業員へ何かしらのメッセージを伝えたいからです。全ての人事施策は会社と従業員とのコミュニケーションツールであると言っても過言ではありません。

そこで今回は、福利厚生の意味と会社からのメッセージについて考えてみました。上記サイトにあるようなユニークな施策ではなく、一般的な企業によくあるような普通の福利厚生の意味を考察していきます。

先に言い訳しておきますが、メッセージの受け取り方などは事実ベースではなく私の主観での考察です。

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交通費支給/通勤手当 = 会社の遠くに住んでね

たいていの企業が交通費支給にしていますが、これは義務でも何でもなく会社の福利厚生です。

当然、遠くに住んでいる社員のほうがたくさんもらえるので、素直に受け取ると「会社の遠くに住んでね」というメッセージになってしまいます。
もちろん実際にはそんなメッセージを送りたいわけではなく、出すのが当たり前という雰囲気だから出している企業が大半かと思いますが。

この問題についてちきりんさんも下記の記事で言及していますね。

d.hatena.ne.jp

2駅ルール = 会社の近くに住んでね

通勤手当と全く逆のメッセージがコレ。会社から一定範囲内(2駅だったり半径何キロ以内だったり)に住んでいる社員には手当てを出す、というもの。
サイバーエージェントの2駅ルール がおそらく最初にやり始め、今ではWeb系ベンチャー企業の多くに採用されている福利厚生です。

メッセージとしてはシンプルに「会社の近くに住んでね」と受け取ることができます。

この制度を導入する企業の思惑としては下記が考えられます。

  • 会社の近くに住んでいる社員は遠くに住んでいる社員に比べて通勤手当が安いのでその分を還元したい
  • 近くに住むことで満員電車での消耗を抑えて仕事に集中してもらいたい
  • 従業員が近所に住むことで交流の機会を多く持ってほしい
  • (終電を気にせず働いてもらいたい?)

最近はチャリ通手当てなどの亜種もあるようです。

家賃手当て・ローン手当て = 本質的にはメッセージなし?安心して働けることのアピール?

大企業には割りと標準装備の家賃手当てやローン手当て。もらえる人ともらえない人の差が実家暮らしかどうかくらいの差しかないので、あえて無理やりメッセージをひねり出すとしたら「実家を出ようぜ、家借りるか買うかしようぜ」ということですかね…。実質的なメッセージはないに等しいでしょう。

何となく「安心して働けますよ」というアピールというのが実際のところでしょうか。給与所得にすると税金をとられるので手当てにしておく、という大人の事情も多分にありそうです。

社宅・寮 = 同じ場所に住むことで一体感の醸成?安心して働けることのアピール?

最近の企業ではあまり聞きませんが、大企業にはまだまだあります、社宅や寮。
これは2つのケースに分けて考える必要があります。

会社から通勤圏内に個人で住居を確保するのが困難なケース

通勤圏内に賃貸物件がない!というケースです。この場合は分かりやすいメッセージです。「通勤に対するハードルを下げるから安心して働いてね」というものですね。

通勤だけでなく転勤へのハードルも下がります。比較的短期間での転勤がある場合でも、会社で社宅や寮を確保してくれているなら引越しの金銭的心理的負担も減って安心して転勤ができるようになります。

上記以外の場合

通勤圏内の住居確保が問題なくできて、かつ転勤もさほどない職場での寮・社宅にはどんな意味があるのでしょうか?

正直私にはピンとこないのですが、あえて言えば「同じ場所に住むことでの一体感の醸成」「(特に地方出身者への)安心感アピール」といったところでしょうか。

余談ですが、地方学生と話していると「親に寮がある会社にしとけと言われてます」という人が一定割合いてびっくりします。ジェネレーションギャップ…?

実際としては、かつて好業績だった企業が節税目的で寮や社宅を作ったのでは?と考えていますが憶測の域を出てません。このあたり詳しい人いたらどうぞコメントにでも。

結婚手当て・扶養手当 = 結婚後も安心して働いてね

大企業・ベンチャー企業問わず割とあるのがコレ。

おそらくかつては生活給(結婚したり子供ができるとお金がかかる)としての側面が強かったのだと思いますが、実力主義のベンチャー企業でも導入しているところが多いところを見ると、「結婚後も安心して働いてね」「在籍中に結婚という重大な決断をしてくれてありがとう、応援するよ」というメッセージが強くなっているように感じます。

一方、扶養手当を少子化対策として強烈にメッセージングしている会社もあります。

news.livedoor.com

バイダイナムコは第3子が生まれたら200万円とのこと!事業内容と従業員へのメッセージがリンクしていて分かりやすいですね。

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勤続手当 = 長く働いてね

一定以上の期間勤続すると手当てもらえる制度です。大企業はもちろんですが、意外にベンチャー企業でも導入しているところがありますね。

メッセージはシンプルで、「長く働いてね」です。設計の仕方でどのくらい長く働いてほしいかのメッセージもコントロールしやすいです。

退職金 = 定年まで働いてね

勤続手当は「長く働いてね」ですが、退職金は「定年まで働いてね」です。勤続手当と違って退職金制度を設けているベンチャー企業はほとんどありません。

何故「定年まで」というメッセージになるかというと、ほとんどの退職金制度が定年まで在籍しているとたくさん退職金をもらえて、途中で辞めてしまうと(定年まで働いたときと比較して)少ししかもらえないように設計されているからです。

終身雇用、年功序列、右肩上がりの成長とセットのこの制度ですが、果たして「定年まで働いてね」は今の社会に即したメッセージなのか疑問が残ります。

早期退職金 = 定年まで働かないでね

そうした中、社員を定年まで雇う余裕がない・スキルミスマッチの社員には辞めてもらいたい・社内を若返らせたい、など様々な理由から定年以前に辞めると退職金を割増しでもらえる制度が誕生しました。メッセージは、「定年を待たずに辞める選択肢もあるよ」と退職の選択肢を示すことです。

上記に挙げているとおり、そもそも退職金制度自体は定年まで勤めてもらうことを目的にした制度ですが、一度始めたら辞めにくい性質があるため、時代に合わなくなっても廃止にできず、苦肉の策で正反対のメッセージの早期退職制度が生まれました。

尚、早期退職金制度の中でも強烈なメッセージを発しているのがリクルートで、38才で辞めるともらえる退職金が最大になるようです(ソースが見つからなかったので現在では異なるかもしれません)

書籍購入・セミナー参加費会社もち = たくさん勉強してね!

これはもうシンプルで分かりやすいですね。通勤手当や家賃補助と異なり、自分から学習する人にメリットが得られるのが特徴です。

ベンチャー企業はよく導入していて、(一般的に福利厚生が充実していると言われる)大企業はあまり導入していない印象です。

ランチ代・飲み会代補助 = たくさん交流してね!

これも解説不要なほどメッセージが分かりやすい。書籍購入補助と同様、ベンチャー企業によく導入されています。

一方、大企業にたまにある「全社員一律の食費補助」は節税や時間外手当の節約など大人の事情で設定されています。
追記)節税にはならないそうです

 

このように、当たり前にあるような福利厚生も、その会社からのメッセージが詰まっています。

一方、メッセージが不明瞭な福利厚生はお金の無駄使いをしている可能性があるので、時代に合わせたメッセージが伝わるものに変えていく必要があるのかもしれません。