なべはるの人事徒然

フィードフォース人事の中の人。採用、教育、評価制度、組織活性など、日々考えていることを綴ります。現在人事で働いている方、人事の仕事に興味のある方、就職活動中の学生などに読んでいただけたら幸いです。

新卒一括採用廃止のメリット・デメリット

倫理憲章の変更による選考開始時期の後ろ倒しなど、普段採用に関わる人以外にも新卒採用のあり方を考えさせる年となりました。

中には、新卒一括採用は日本の古き悪習であるから欧米を見習って即刻やめるべき、という意見もあったり。

そこで今回は、新卒一括採用をやめたらどうなるのか、メリットデメリットを挙げてみることで論点の整理をしてみようと思います。目的は論点の整理なので、私自身が新卒一括採用についてどう思っているか、はひとまず置いておきます。

新卒一括採用をやめる、の定義

考察の前に新卒一括採用の定義をしておきます。
Wikipediaによれば、「企業が卒業予定の学生(新卒者)を対象に年度毎に一括して求人し、在学中に採用試験を行って内定を出し、卒業後すぐに勤務させるという世界に類を見ない日本独特の雇用慣行である」とのこと。

要素に分けると、「年度毎に一定の期間で募集、選考する」「対象は在学中の学生」「卒業後すぐに勤務させる」の3点がポイントのようです。

そこで、本記事内での新卒一括採用をやめる定義は、既存の新卒採用活動を下記3点を満たした採用活動に置き換えることにします。

  • 採用期間を年毎に区別しない = 通年採用
  • 採用対象を在学中の学生に限定しない = 既卒採用
  • 入社時期を卒業直後に限定しない = 入社時期の自由化

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新卒一括採用をやめるメリット(企業側視点)

メリット1:多様な人材を獲得できる可能性がある

採用期間、対象、入社時期が限定されていたこれまでの新卒一括採用では採用できなかった層へのアプローチができそうです。

具体的には下記のような人たちでしょうか。

  • 海外留学などで一般的な就職活動期間に就職活動ができない人
  • 既卒学生
  • 9月卒業などで4月入社の条件にあてはまらない人

新卒一括採用をやめるデメリット(企業側視点)

デメリット1:採用が長期化、コストがかかる

これまで、学生がどの期間に就職活動をするかがある程度決まっていました。
もし一括採用という概念がなくなり通年採用になった場合、企業の採用活動期間も学生の就職活動期間もバラバラになります。

候補者を集め、選考する労力、コスト共に、一括採用よりも高くなるのは間違いないでしょう。

デメリット2:教育コストがかかる

新卒採用の多くは即戦力ではなく、育成重視のポテンシャル採用です。当然、入社後には教育研修の時間が必要です。
これまで入社時期は4月と固定されていたので、教育を一度に効率的に行うことができました。

もし入社時期がバラバラになったら、1人あたりの教育コストが高くなるでしょう。

学生への影響

何が学生にとってのメリットかデメリットかは議論の余地があるので箇条書きで。

  • 自分のタイミングで就職活動を始められる
  • 就職前に留学など、長期的な活動の自由度が高くなる
  • 複数の企業を同時に比較検討しづらくなる
    (同じ時期に採用活動しているとは限らないため)
  • 企業採用枠が減る場合、就職できる人が少なくなる?
    (上記のとおり、採用コストと教育コストが高くなれば採用枠が減る可能性も)

論点はどこにあるか

以上のとおり、新卒一括採用の慣習がなくなり、通年採用が当たり前になった場合の企業側のメリットデメリット、学生への影響を考えてみました。
そこから見えてきた、新卒一括採用の是非の論点は下記にありそうです。

  • 選考時期が通年になることの影響
  • 採用対象を限定しなくなることの影響
  • 入社時期を限定しなくなるとの影響
  • 上記の影響により、従来の育成前提のポテンシャル採用が即戦力採用に変化するのか

これらの論点を整理したうえで議論しないと、選考時期のメリットと入社時期のデメリットを主張しあってみたり、欧米での即戦力採用を引き合いに出してみたりと、収拾がつかなくなってしまいそうです。

自分なりに論点は整理できたので、次回以降に新卒一括採用に関する私の考えなどをまとめてみたいと思います。今日はここまで。

おまけ:海外での新卒採用戦線

本記事では持論を展開しない、と決めて書いたのですが、どうしても1つだけ言いたいことがあります。それは、「新卒一括採用は海外では非常識だからすぐに辞めるべきだ」という主張。

下記の記事に詳しいですが、欧米では新卒一括採用はなく、基本的には中途採用同様に即戦力採用です(エントリーレベルというポテンシャル採用もありますが薄給かつ狭き門らしいです)。多くの学生が在学中や卒業後にインターン等を通してスキルを身につけ就職面接に臨むらしいですが、職歴のある候補者を容易に上回れるはずもなく、若年層の失業率が問題になっています。また、こういった即戦力採用の文化(?)は、人ではなく職務に給与が支払われる職務給主義の考えが根本になっています。

offerbox.jp

こういった、「教育を前提としない即戦力採用」「職務給主義」など、日本とは異なる事情があったうえでの採用の文化であり、かつ若年層の失業などの問題点に目を向けず、「日本はおかしいから欧米のマネをしろ!」は無責任にすぎやしないかと思うのです。