ストレス耐性よりもストレス要因を見よう
労働安全衛生法の改正により、今年(2015年)12月より、50人以上の事業所に対するストレスチェックが義務化されました。
今回の法改正は既存の従業員が対象ですが、これまでも採用時の適性検査でストレス耐性やストレス対処力をチェックしていた企業も多いかと思います。
そこで今回は、採用基準として利用されるストレス耐性や対処力について整理してみようと思います。
採用試験に使われるストレス耐性テスト
メンタルヘルス.jpによると、ストレス耐性とは下記のように説明できるようです。
「ストレス耐性」とはストレスに対するタフさ、ストレスにどれだけ耐えられるかという抵抗力のことです。同じ環境下でも、ストレスを強く感じる人と感じにくい人、あるいはストレスに打ち克てる人とそうでない人がいるのは、個々のストレス耐性に差があるからです。
企業に入って働くのであれば、多かれ少なかれストレスを感じながら働くことになるので、ストレスを感じてすぐにくじけてしまう人よりは、ストレスをものともせずに働ける人のほうを採用したい、という考えになるのは自然のことかもしれません。
人事関連のサービスを一括請求できるHRプロでは、ストレス耐性を測ることのできる適性検査だけで25コもあります。採用時、適性検査を実施してストレス耐性を測ることは、一般的になりつつあるようです。
ストレス耐性だけで判断するのは危険
ストレス耐性の高い人を採用したい、ストレス耐性の低い人は採用したくない。この採用基準が一般的になっていることが少し危ういのでは、と感じています。
ストレス耐性を見ること自体がダメなのではなく、正しい理解をせずに盲目的に信じてしまうことで、本来採用すべき人材を不合格にしたり、ストレス耐性は高いけど自社には合わない人材を採用してしまったり…という事態が起こりかねないと思っています。
テストの種類にもよりますが、たいていの適性検査ではストレス耐性と関連の高い項目が設定されており、その数値を見てストレス耐性を判断します。
例えば有名なSPIであれば、「敏感性」「自責性」「気分性」が高い場合はストレス耐性が低いと判断されます。
これらの項目でストレス耐性を判断し、合否を決めることの問題点は2つあります。
1.ストレス耐性が高い = 鈍感、空気が読めない人かも?
SPIの例で言えば、ストレス耐性が高い人というのは、敏感性が低く(=鈍感で)、自責性が低く(=問題が起きても自分の責任とは思わず)、気分性が低い(良いことも悪いことも淡々と受け入れる)人、ということになります。
個人のストレス耐性的に見れば、問題発生時にその人が一人で思い悩んでメンタル発症する可能性は確かに低いかもしれません。しかしチームで見た場合、もしかしたら「問題に気づかず、問題があっても人のせいにするので扱いずらく、周囲のメンバーのストレス源」となっているかもしれません。
(そう決めつけるわけではなく、適性検査をストレス耐性以外の角度で見るとそう見える可能性があるということです)
このように、ストレス耐性を採用基準に使う場合は、ストレス耐性が高いことと裏返しの特徴にも気をつける必要があります。
2.何をストレスに感じるかは人それぞれ
本記事で一番主張したいのがココなのですが、どんなことをストレスに感じるか(ストレッサー と言います)は人それぞれです。
例えば、仕事がたくさんあることにストレスを感じる人もいれば、仕事の量が物足りないことにストレスを感じる人もいます。
曖昧な指示での仕事にストレスを感じる人もいれば、事細かな指示がストレスに感じる人もいます。
(どちらも後者が私です)
同じ環境下でストレスを感じる/感じないは、ストレス耐性の高い/低い以前に、その人が何をストレッサーと捉えているかで大きく異なるのです。
例えば、人とのコミュニケーションが必須の職場環境があったとします。Aさんはストレス耐性は高いが、人とのコミュニケーションがストレッサー、Bさんはストレス耐性は低いが、人とのコミュニケーションはストレスにならない…こんな2人がいた場合、採用対象として有力なのはBさんのはずなのに、ストレス耐性だけを重視してBさんを不合格にしてしまう…ストレス耐性を採用基準に使うにはそんな危険性をはらんでいます。
<コミュニケーションが必須の職場>
Aさん…ストレス耐性 高 コミュニケーションがストレス
Bさん…ストレス耐性 低 コミュニケーションはストレスじゃない ←本来はBさんが採用対象になるはず
正しく理解して、正しく運用しよう
色々書きましたが、ストレス耐性を採用基準にすること自体は有用だし、問題ないと思っています。
ただ、ストレス耐性が高いから大丈夫、などと盲目的に運用するのではなく、
- 自社のメンタル発症者はどんな特徴があるのか
- 自社が従業員に与えうるストレッサーは何で、候補者のストレッサーとの比較はできているか
- ストレス耐性が高いことの裏返しの懸念への見極めは他選考フローでカバーできているか
これらのことを抑えて、正しく運用していければと思います。
(おまけ)
本ブログの趣旨とは外れるので触れませんでしたが、ストレスに対してどう立ち向かい解決できるかを測る、ストレス対処力(ストレスコーピング)という考え方もあります。
ただ耐え抜く力を見るストレス耐性では時代遅れで、対処し解決するストレスコーピングを見よう、という流れもあるようです。
一見すると本質的で建設的なように見えるのですが、反対意見もあったりして。。。
別の機会で記事にできればと思います。