なべはるの人事徒然

フィードフォース人事の中の人。採用、教育、評価制度、組織活性など、日々考えていることを綴ります。現在人事で働いている方、人事の仕事に興味のある方、就職活動中の学生などに読んでいただけたら幸いです。

トヨタが終身雇用限界宣言をしたけれど、具体的にはどうなるの?

トヨタが終身雇用限界宣言をしたけれど、要はどうなるの?と疑問に思ったので整理してみました。

おさらい:終身雇用ってそもそもなんだっけ?

終身雇用という法律や制度があるわけではなく、長期の雇用を前提とした雇い方の慣行のことを終身雇用といいます。平たくいえば、「定年まで雇い続ける」ことですね。

この終身雇用が生まれた歴史を調べてみると、高い離職率の対策として定期昇給や退職金制度を導入したことが起源のようです。

現在のような長期雇用慣行の原型がつくられたのは大正末期から昭和初期にかけてだとされている。 1900年代から1910年代にかけて熟練工の転職率は極めて高く、より良い待遇を求めて職場を転々としており、当時の熟練工の5年以上の勤続者は1割程度であった。 企業側としては、熟練工の短期転職は大変なコストであり、大企業や官営工場が足止め策として定期昇給制度や退職金制度を導入し、年功序列を重視する雇用制度を築いたことに起源を持つ。Wikipedia より)

1900年代当時、従業員に辞められてしまっては困るので、「定期昇給」「退職金制度」など、従業員にとって定年まで勤めたほうが得になる仕組みにした、ということですね。「ウチに入社したら定年まで雇い続けるし、毎年ちょっとずつ給料は上がるし、定年まで勤めればたくさん退職金もらえるよ」というのが採用にも離職防止にも有効だったわけです。
起源をみると、「従業員は家族だから…」みたいなウェットな理由で始まったものではないことがみてとれますね。
それにしても、日本の伝統的特徴として語られることの多い終身雇用は、たかだか100年程度の歴史しかないんですね…。 

終身雇用じゃなくなる…具体的にはどうなる?

みなさんご存知のとおり、トヨタの社長が「終身雇用を続けるのは難しい」と発言したわけですが、具体的にどうするか?には一切触れてないんですよね。

「終身雇用終了」という言葉を聞いて何となく不安になってしまった方もいると思いますが、雰囲気だけじゃなくて「終身雇用終了」が具体的にどういうことを指す可能性があるのか?整理してみようと思います。

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リストラクチャリングによる解雇・・・これまでもあった

業績悪化や大規模な事業縮小による解雇。これは十分ありえると思います。
しかし、業績悪化や事業縮小による解雇はこれまでもありましたし(トヨタでも1950年に1600人の解雇を断行しています)、終身雇用が語られる文脈でも、会社危機の際のリストラクチャリングはありえるとしている場合が多いです。

普通解雇・・・そこまではやらなそう

リストラクチャリングなどの大規模な事業整理ではなく、従業員が成果を出せていないなどの理由による普通解雇(整理解雇)です。

終身雇用の廃止と聞くと、こういった普通解雇を思い浮かべる方が多いと思いますが、日本では労働契約法16条の解雇権濫用法理の壁を突破するのが困難で、実質的に普通解雇はできないというのが共通認識となってさえいます。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする(労働契約法16条)

普通解雇は、「困難」なだけで「不可能」ではないのでトヨタが実施する可能性もあるとは思いますが、そこまでのリスクを冒してまでやるかな?というと個人的にはやらないんじゃないかと思っています。やるにしても、もう1段階くらい布石を打ってからにしそう。

城繁幸さんも、解雇まではしないだろうという予想のようです↓

www.j-cast.com

契約期間を有期にする・・・採用に不利になるだろうからやらない

雇用時の契約期間を、定年までじゃなくて有期にする選択肢です。

「終身雇用をやめる」という言葉を素直に受け取るとこれがいちばんしっくりくるのですが、今の日本では「有期雇用は不安」という風潮はまだまだ強く、採用に不利になりそうなのでやらなさそうです。

有期雇用契約にして、その分給与は期間の定めがない人よりも高くもらえるという働き方は今後一般化しそうではありますけどね。トヨタがそこまでは攻めない気がします。

年功賃金の廃止 / 退職金制度の見直し / 早期退職制度・・・これだ!

これまで挙げた選択肢は、どれも企業側が一方的に社員の雇用や雇用期間を定めるというものでしたが、そうではなくて社員側に選択肢を与え、結果として定年まで働く社員を減らす・・・この選択肢が現実的に最もありえそうです。

1つずつみていきましょう。

  • 年功賃金の廃止
    定年まで給与が上がり続けるのではなく、例えば40才で給与がピークになる賃金設計にすることです。従業員としては40才以降は他社へ転職するきっかけになり、会社としては若くて実力のある人に高い賃金を出すことができるようになります。
  • 退職金制度の見直し
    退職金が多くもらえるタイミングを定年ではなくその手前に設計するのはありえそうです。
    例えば、50才で辞めるとたくさん退職金をもらえるように設計すれば、そのタイミングで転職を考える社員が増えます。
  • 早期退職制度
    特定期間内で退職することにインセンティブを与えることで、一定期間での人員整理を行う。解雇ではなくて、選択権はあくまで従業員が持っています。
    最近だと富士通が大規模な早期退職を実施しましたね。ただ、このやり方だと本当は会社に残ってほしい優秀な人ほど早期退職に立候補しがちという問題は残ります。

    www.nikkei.com

終身雇用の終了とは、1つの会社で定年まで働くことが得にならない社会になるということ

以上、終身雇用のおさらいと、実際にありえる選択肢をみてきました。

こうしてみると、終身雇用の終了といっても急に解雇が増えるということではなく、1つの会社で定年まで働き続けることが必ずしも得にはならない社会になるということなんだとわたしは理解しています。いうほど終身雇用はなくならない。
若い人にっては、実力しだいで今よりも高い賃金を得られる可能性があったりと、悪いことばかりではないですね。

一方で、現時点ではやらないだろうと予想した普通解雇については、今後どうなっていくか注目したいです。トヨタや経団連が解雇規制の緩和について言及するときがきたら、本当の意味で終身雇用の終了の時代がくるんだと思います。

 

お読みいただきありがとうございました!
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