なべはるの人事徒然

フィードフォース人事の中の人。採用、教育、評価制度、組織活性など、日々考えていることを綴ります。現在人事で働いている方、人事の仕事に興味のある方、就職活動中の学生などに読んでいただけたら幸いです。

ユルくて深いキャリア相談『好きなようにしてください』読書レビュー

一橋大学の教授で競争戦略論を専門にしている楠木 健先生の『好きなようにしてください―――たった一つの「仕事」の原則』を読んだ読書レビューです。

著者 楠木 健先生のプロフィール

1964年生まれ。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。
30代からH&D(ハゲ&デブ)の連続的な攻撃に悩まされた結果、「ハゲじゃなくてスキンヘッド」「デブじゃなくてがっちりした人」という対策を講じることで乗り切る(詳しくは『経営センスの論理 (新潮新書) 』を参照のこと)

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(プレンジテントオンライン より)

話があけすけかつユーモアたっぷりで面白く、私もサイン入りの著書を持っています。

「企業にとって最も重要なのは株主か従業員か利益か?」を説明する比喩として「金と地位と女、どれか1つ得られるとしたらどれから得ますか?金があれば地位も女もついてくる、地位があれば金も女もついてくる。つまりどれからでもいいのです。ただ、女を先に求めるとロクなことがない」と言っちゃう人です。

代表作は『ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books) 』。アスクルやガリバーインターナショナル、スタバの戦略が何故優れているのかを、ストーリーという概念で解説。戦略論の知識がなくても読める良書です。大学時代にこの本に出会いたかった。

 私のブログでは、1年前にLIXILの八木洋介さんと楠木先生の対談をレポートしています。 

nabeharu.hatenablog.com 

News Picks×楠木先生のお悩み相談連載が書籍化

今回紹介する『好きなようにしてください』は、ニュースキュレーションアプリのNews Picksの相談コーナーが書籍化されたものです。News Picksと楠木先生という絶妙にマッチしない組み合わせをアレンジした方に乾杯です。

<相談内容の一例>

  • 大企業とスタートアップで迷っています
  • 今すぐ起業すべきか、それとも1年間修業してからにすべきでしょうか? 
  • 上司にやる気がないので、転職しようと思うのですが
  • 東大とスタンフォード大学、どちらに行くべきでしょうか?
  • 30代でいまだに仕事の適性が分かりません etc...

 News Picksの企画だけあって仕事やキャリアの相談が多いですね。こういった相談にひたすら楠木先生節で答えていく。ただそれだけの本なのですが、それがやたらと面白い、楠木先生ワールドにハマりそうです。

相談に対する回答は(ほぼ)すべて「好きなようにしてください」

「大企業とスタートアップで迷っています」に代表されるような答えのない悩みにひたすら答える本書ですが、回答のほとんどすべて(50の相談のうち40以上)が「好きなようにしてください」です。

途中、あまりに「ベンチャーか大企業か」系の相談ばかりで「好きなようにしてください」の言い方のバリエーションが豊富になっていくくらいです。私の一番好きな「好きなようにしてください」が下記。

相談:大学生ですがスタートアップ企業でのアルバイトにハマりました。大学を中退したほうがいいでしょうか(実際の相談はもう少し長いです)

回答:僕のいつもの決めぜりふをよどみなく引き出しまくりやがるためにあるような、ジャストミートなご質問。ナイスですね。ナイスすぎるといっても過言ではありません。それでは大変長らくお待たせしました。北は北海道から南は九州・沖縄までの日本全国津々浦々、100万人の「ベンチャーに行くべきか」でお悩みのあなたに結論です(せーの、でご唱和をお願いします)。
好きなようにしてください。

もちろん、本当に「好きなようにしてください」の回答だけでは連載にも本にもなりませんから、短い相談文から楠木先生が相談者の状況をあれこれ推察して、関連ある持論に余談、たまーに具体的アドバイスが展開されます。
上記のスタートアップ企業のアルバイトにハマっている学生への回答にも実は続きがあって、「好きなようにしてください」というお決まりの結論の後にトレードオフの本質についての余談が始まり、余談の先の余談である分身の術と不老不死についての見解(?)が披露され、人生で本当に憂うべきはマクロでは戦争、ミクロでは疾病のみという持論が繰り広げられ、最後には「中退ではなく1年休学ではどうでしょう」という割と現実的な代案が提示されます。

この持論と余談、脱線のリズムがやたらと心地よく、知らない人の人生の相談という割とどうでもいい話題にも関わらず、小説のようにすいすいと読めるのが本書の特徴です。

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このように、「好きなようにしてください」と回答しながら楠木先生の主張や趣味、人生観や仕事観が垣間見える本書。その中でも特に気に入っているのが下記の2つです。

仕事の価値は顧客が決める

「まずは相手を儲けさせる。それで初めて自分が儲かるのが商売の基本」というフレーズが本書には何度も出てきます。どんなに努力をしようが、時間をかけようが、相手にとって価値とならないものは何の意味もない。そういった類のものは趣味と自己満足である、と。

言葉にしてみるとごくごく当たり前のことなのですが、仕事やキャリアで悩んでいる相談者に対する楠木先生の回答から、仕事の本質を思い出させてくれます。

環境で人生は左右されない

ベンチャーなのか大企業なのか、東大なのかハーバードなのか、日本なのかインドなのか、どちらのほうが自分の人生にとって得なのか・損なのかに悩む相談者に対して楠木先生は、「大事なのは環境よりもそこで自分自身がどんな行動をとるかだ」と、環境よりも行動のほうが大事としています。

ハーバード大学に行けば自動的に優秀になれるわけではなく、ハーバード大学で努力するから優秀になれるわけです。もちろん、結果的に見てどちらのほうが自分に向いていたかどうかはあるかもしれませんが、結局のところやってみる前に完全な正解は分からない。そうであれば、正解がどちらかと思い悩むよりも、その時の感覚に従ってえいやっと決断してしまえばいい。結果的に選んだ選択肢がどうも違うようであればそこからやり直せばいい。まさに、「好きなようにしてください」という言葉に凝縮された楠木先生なりの価値観です。

私的にこの考えがすんなりと受け入れられるのは、「選んだ選択肢を絶対に正解にしてやる!」という暑苦しい思想ではなく、「違ったら違ったでまた他の道に行けばいいじゃない」という楠木先生独特のユルさが根底にあったうえでの「好きなようにしてください」だからかと思います。
(選んだ選択肢を絶対に正解にしてやる、という考えも好きですけどね)

 

仕事やキャリアに悩んでいる方、NewsPicksのコメント欄の意識高い感じが苦手な方は、ぜひ息抜きに読んでみることをオススメします。

やりがいのある仕事はないが、やりがいを感じて働く人はいる

「仕事のやりがい」について考えていることをまとめてみました。

誰だってやりがいのある仕事をしたい

就職活動中の学生に仕事選びの優先順位を聞くと、多くの方が「仕事のやりがい」を上位にあげます。もちろん人によっては「安定性」や「給与待遇」の方が大事だという人もいるでしょうが、やりがいのある仕事とない仕事だったら、誰だってやりがいのある仕事をしたいと考えているはずです。

www.hanakuro.jp

同じ仕事でも、やりがいを持っている人と持っていない人がいる

安定性や給与待遇等の諸条件は別にして、やりがいのある仕事に就くことが充実したキャリア = 仕事人生を歩めるとしたら、「やりがいのある仕事に就きたい!」「やりがいのある仕事って何だろう?」と就職活動生が考えるのも無理はありません。
最近では、働きがいがある企業ランキングなるものもあり、参考にしている人も多いかもしれません。

www.itmedia.co.jp

それでは、このランキングで上位に入ってる企業で仕事をすればやりがいを持って働けるのか…と考えてみると、疑問符がつきます。
特に既に社会に出て働いている人からすると、「上位のあの会社の仕事は自分には合わなそうだな」とか「この業界の仕事は自分にはやりがい感じられないな」という感想を持たれることと思います。

そう、同じ会社で同じ仕事をするにしても、やりがいを持って働ける人とそうでない人がいるのです。

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3人の石切工の感じているやりがい

ドラッカーの経営論に有名な3人の石切工の寓話があります。

3人の石切職人が働いていた。
そこを通りがかった旅人は石切の仕事に興味を持ち、1人目の石切職人に尋ねた。

「あなたは、何をしているのですか」

1人目の石切職人は「金を稼ぐために、このいまいましい石と悪戦苦闘しているのさ」とつまらなそうな顔をして答えた。

旅人は2人目の石切職人の横を通り同じように質問をした。

彼は「この町一番の石切の技術を身につけるためだ」と無表情に淡々と答えた。 旅人は3人目の石切職人にも尋ねた。

3人目の石切職人は空を見上げ目を輝かせながらこう答えた。
「私が切り出したこの石で、多くの人々の心の安らぎの場となる『教会』が出来るのです。きっと日曜にはたくさんの人が礼拝に訪れますよ」

「何をしているのですか?」という質問の回答から察するに、1人目の職人は全く仕事にやりがいを感じていないようですが、2人目は技術を磨くことにやりがいを感じており、3人目は自分の仕事のその先の成果に想いをはせて大きなやりがいを感じています。
3人とも、全く同じ仕事をしているにも関わらず、です。

ドラッカーがこの寓話を持ち出した主旨としては、マネジャーを任命するには3人目の男にせよ、ということなのですが、「全く同じ仕事をしていてもやりがいを感じる人とそうでない人がいる」ということにも気づかせてくれます。

やりがいのある仕事はないが、やりがいを感じて働く人はいる

こうして、どんな仕事であってもやりがいを感じている人もいればそうでない人もいることを考えてみると、仕事それ自体にやりがいがあるわけではなく、あるのはやりがいを感じて働いている人がいる、ということなんだと思います。
そのことに気づかないと、仕事自体にやりがいを求めてありもしない「やりがいのある仕事」を探してしまう青い鳥症候群になりかねません。
また、その人の能力・適性・組織の都合との折り合いがあるので、やりたい仕事を完全にコントロールして選ぶのは現実として難しいですが、やりがいを持って働くかどうかは自分の心の持ちようしだいなので、精神衛生上健全になれるようにも思います。
会社や仕事を選ぶ際は、ありもしない「やりがいのある仕事」を探す前に、自分自身の仕事に対する価値観を整理するところから始めてみてもいいかもしれません。
 

おまけ:学生が社会人に仕事のやりがいを聞くときに...

寓話の中で石切職人にした質問「あなたは何をしているのですか?」は仕事の本質を突いた良い質問だと思います。
それに比べると、就職活動中の学生が社会人に「今の仕事のやりがいは何ですか?」と聞くのはあまり良い質問ではないように思います。

質問に答える社会人としては、学生にカッコつけたい気持ちや、自社のことをアピールしなきゃ!という思いが少なからずあるので、「やりがいは何ですか?」と聞かれたら(普段はそんなこと考えてなくても)それらしい答えをひねり出してしまいそうです。

ここは素直に「あなた何をしているんですか?」と聞いてみるのはどうでしょう。
「営業だよ」「採用活動です」と職務内容を答えられたら、「その仕事の先には何があるんですか?」「その仕事の意味は何ですか?」「どうしてその仕事をするのですか?」と重ねて聞くと、その人の仕事観が見えてくるかもしれません。

 
(関連記事)

 ↓今の仕事にやりがいがない、と思っている方は我慢すべき苦労かどうか考えてみてもいいかもしれません↓

↓仕事観はいつ醸成されるかの仮説↓

nabeharu.hatenablog.com

働いたことのない学生にキャリアプランを聞く理由

新卒/中途問わず、多くの面接でされる質問の1つに「将来のキャリアプランを教えてください」があると思います。

この質問、多くの方を悩ませているようで、検索エンジンで「面接 キャリアプラン」と検索すると多くの回答集が出てきます。
特に、まだ働いたことのない学生にとっては、キャリアプランと言われても働いたこともないのに答えようがない、と考えている人も多いのではないでしょうか。

今回のブログは、多くの人を不安にさせているキャリアプランに関する質問を企業側はどのような意図でしているかを考えてみます。

明確なキャリアプランがないとダメか?

就職活動中の学生、就職活動を終えた新社会人と話をしていると、「キャリアプランを明確に答えられなかったから不合格になった」とか、「面接のためにキャリアプランをひねり出しておいたので合格した」という話を聞いたりします。

しかし、ほとんどの場合において面接官は新卒の面接でキャリアプランが明確になっているかどうか、を重視していません。
(話を聞いた学生は恐らく別のところが要因で合否が出ているはずです)

そもそも、まだ働いたことのない学生に現実的なキャリアプランを描けるわけもありませんし、そうでなくても変化の激しい現代において、「このキャリアプランはアリ、これはナシ」と面接官が判断できるはずもありません。

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大事なのは明確かどうかではなく、価値観や方向性が自社に合うか

では、キャリアプランに関する質問で面接官は何を知りたいのか。
それは、キャリア = 仕事人生に関する志向性や価値観を知りたいのです。

どんな価値観を持ち、仕事を通して何を得たいのか、どんなことをモチベーションの源泉としているのか。そしてそれらはどんな仕事をすることで実現できると考えているのか。

これらを深く聞いていくことで、その人の価値観と仕事への理解度をある程度把握することが出来ます。
その結果、もし仕事の理解が間違っているようなら正してあげる必要があるでしょうし、仕事の価値観と自社の目指す方向性が明らかに異なるならいくら優秀でも採用するのは難しいでしょう。

このように、言葉にすると当たり前のことを知りたいための質問が、「キャリアプランは明確にしよう!」「明確にしすぎると柔軟性がないと思われるから他の仕事でも頑張りますと添えよう」などと小手先の情報ばかり出回っているために混乱が起きているように感じます。

明確に決める必要はないが、考えることはできるはず

上記に書いたとおり、キャリアプランを明確に決めることは難しいですし現実的ではありません。

しかしだからといって、どうせ分からないんだから何も考えなくてもいいや、と思考停止になるのは、面接を突破するという意味でも自分自身のその後のキャリアという意味でも良くありません。

自分は将来どうなりたくて、そのためにはどういう仕事や会社の選択肢があるのか、考えることは、面接の準備ということでなくても人生において決してマイナスにならないはずです。
(私見ですが、無理くりロジックをつなげてひねり出したキャリアプランを披露する方よりも、現時点で考えていることを筋道立てて話した上でまだ悩んでいて結論が出てないんです、という方のほうが仕事においてよほど信頼できるように思います)

面接突破のため、内定のため、と短絡的な視点ではなく、これから始まる長い仕事人生の第一歩をどう踏み出すのか、しっかり考え、情報収集して(そしてできれば社会人の意見を聞いて)いただきたいと思います。

 

おまけ:キャリアプランが明確かどうかを判断基準にしている企業の方へ

どんな人を採用するかはもちろん企業の自由なわけですが、学生の時点でプランが明確か否かが、自社で活躍できる人材を選別するにあたって本当に必要な要件なのかどうかを再考してみる余地はあるのではないでしょうか。

おまけのおまけ:この手の議論が複雑な理由

この記事、すごく難産でした。書いているうちに議論があっちこっちに行ってしまい、半分以上書き直すなど、他の記事の2倍以上の時間がかかっています。

面接時におけるキャリアプランの議論が複雑になる理由は、各プレイヤーの思惑と認識がバラバラだからなんじゃないかと気づきました。

学生:キャリアプランに関する質問にうまく答えられなかったから落ちたと思っている(うまく答えられなかったことが印象に残りやすい)

内定者:合格した面接ではキャリアのこともうまく答えられたような気がするから考えておくことが重要なんだな、と思っている(自分に合う会社から合格が出てるだろうからうまく答えられるのは当たり前)

企業:キャリアプランは明確じゃなきゃいけないわけではないけど、中途半端なプランを言われるとつい突っ込んじゃう。明確じゃないとダメではないけど、明確かつ自社に合ってるならそれはそれで評価が高い

 

上記の意見や情報がごっちゃになると、「やっぱりキャリアプランは明確にしなきゃ」になっちゃうんだろうなぁと、何だか納得しました。

大学生の本分は学業?就活?それとも...

倫理憲章、また変更になる可能性が出てきましたね。

www.nikkei.com

今日のブログは、倫理憲章それ自体ではなく、議論の前提になっている「学生の本分は学業なのか」について思っていることを書きます。

学生の本分は学業?学業なんか役に立たない?

古くは就職協定、今でいう倫理憲章による採用時期に関する議論は、学生の本分である学業が就職活動によって著しく阻害されることを問題視されたものでした。

一方で、授業がつまらない、単位を取るのがカンタン、などの理由で大学で真面目に授業を受けても役に立たない、という意見の方もいます。極端なものだと↓のように、「学業よりも就活のほうが成長できる!」という主張まであります。

news.careerconnection.jp

学生の本分は学業だから就職活動なんかせずに、在学中は学業に集中したほうがいい!という意見と、学業なんて何の役にも立たないんだから社会との接点を持てる就職活動したほうが成長できる!という意見。私にはどちらも極端すぎて本質が抜け落ちているように感じます。

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人生を豊かにするための学業

大学生、特に文系学部生の多くは専攻とは直接関係のない就職先を選択します。そのことを指して、将来役に立たない知識を身につけても無駄...と捉える人もいるかもしれません。確かに、フランス文学史の知識もマクロ経済学の複雑な数式も徹夜で暗記した民法も、就職後すぐに役に立つことはおそらくないでしょう。

しかし、学問を学ぶのは、そこで得た知識を短期的かつ直接役に立てる場合だけではないはずです。

その学問を修めることで身につけた多様な知識や価値観、学習方法、物事を深く考察する思考力、他者との協力や議論等が、長期的に見れば必ずその人の人生を豊かにするはずです。

大学教育に抜け落ちているのは社会とのリンク

学業 = 人生を豊かにするためのもの、と位置づけると、確かに現在の大学教育は世情に即していないように感じます。
多少改善の動きが見られるとはいえ、知識偏重の詰め込み型・一方的な講義・教授の授業下手/低いモチベーション・扱っている内容が古すぎる 等々...。
社会とのリンクが見られず、大学内でのみ通用する学問/知識をたくさん身に着けた学生が学内では高く評価される状況では、大学での学業は無駄と言われてもある程度仕方ないかもしれません。

就職活動が、初めての社会との接点になっている

現在の大学での学業だけでは、社会との接点に触れたり考えたりする機会が少ないので、多くの学生は就職活動で初めて社会と接することになります。
偏差値やテストの点数など明確な指標があった世界から、急に自分が行きたい進路を自由に選べと言われ、グループディスカッションや面接という基準があいまいかつ身1つで勝負せざるをえない状況に放り込まれるのだから、戸惑って当たり前です。

多くの学生がそうして戸惑い、初めは失敗しながらも段々と社会と自分との接点を見つけ、納得のいく就職先を見つけることになります。就職活動が長期化している原因の1つは、企業の採用活動時期うんぬんではなく、こうした社会と自分との接点を見つけることに時間がかかるためだと思っています。
逆に言えば、短期間で複数の内定を勝ち取る一部の学生は、それまでの学生生活で社会とリンクする活動をしていた人でしょう。

社会とのリンクを意識しながらも、学業を頑張ってほしい

学生の本分は学業。私自身はこの意見には全面的に賛成です。

どんな分野であれ、本気で試行錯誤しながら学ぶのであれば、その後の人生で必ずプラスに働きます。一方で、講義をまじめに聞くだけ、テストの前に一夜漬けをするだけ、の学習をしているだけでは将来のプラスにはあまりならないでしょう。

今目の前のものに盲目的に取り組むのではなく、将来社会に出たときに必要な能力や経験、思考はどういうものかを意識したうえで学業に取り組みましょう。もし、今のカリキュラムだけでは社会とのリンクが薄すぎると感じるのであれば、自らそういった場を探したり作ってみればいいです。きっと、今までにない世界が広がって人生が豊かになることと思います。

(おまけ)社会とのリンクを意識している秋田国際教養大学

社会とのリンクを強烈に意識している大学もいくつかあって、そのうちの1つが秋田国際教養大学です。

  • 授業は全て英語
  • 半数以上が外国人教員
  • 1クラス平均17人の少人数制
  • 1年間の海外留学が義務
  • 在籍学生の5人に1人が留学生 

などなど、社会(というかグローバル)を強烈に意識した特徴を持っています。就職率も98%とべらぼうに高く、県外含めて高校生からの人気が高いそうです。

こういった、強烈な個性やコンセプトを持った大学が今後ますます増えるかもしれませんね。

【仮説】仕事観が醸成されるとき

【疑問】仕事観はいつどこでどのように醸成されるのか 

これまでの、スカウト/ヘッドハンティングや新卒・中途採用業務を通して、人が仕事や会社を選択・決断する場面に数多く立ち会いました。数だけで言えば4ケタを超えるかもしれません。

当然のことですが、仕事への価値観 = 仕事観は十人十色です。
仕事を自己実現の手段と捉えている人、社会貢献のために仕事をしたいと考えている人、安定していて残業が少なく休みも取りやすい仕事がいいと考える人、とにかくたくさんお金を稼ぎたいと思っている人、仕事が楽しくて仕方ないという人、働いたら負けだよね、と思っている人 etc...。

価値観は人それぞれなので良いも悪いもないのですが、ふとそういった仕事観はいつどこで醸成されているんだろうか、仕事をネガティブに(=辛くて避けたいもの)捉える人と、ポジティブに(=辛いこともあるけどやりがいのあるもの)捉える人がいるのはどうしてなんだろうか、という疑問がわいてきました。

私はキャリアの専門家ではありませんし、そういった研究に詳しいわけでもありません。また、私自身でも結論が出ているわけではないので、本ブログはこの疑問に対する思考過程と現時点での仮説を備忘録代わりに残しておこうかと思います。
思考過程を残す、という特性上これまでの記事以上に「思います」「気がします」という推定文ばかりです。

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仕事観は、仕事をする前からある程度固まっている?

明確な根拠はないので肌感覚での仮説ですが、実際に社会人として働き始める前、大学生で言えば就職活動の前後くらいには、ある程度仕事観が固まっているのではないかな、と考えています。少なくとも、仕事をポジティブに捉えているか、ネガティブに捉えているか、のベクトルくらいは決まっていそうです。

もちろん、実際に社会に出てみて仕事の現実を知って考えが変わることもあるでしょうが、そこで変わるのも一定範囲内のマイナーチェンジ程度であって、ドラスティックには変わらないように思います。

例えば「バリバリ働きたい」と学生時代に思っていた人が就職後に「自分にとってのバリバリとはメガバンクじゃなくてベンチャー企業で働くことだな」みたいな変化は十分ありそうです。一方、「バリバリ働きたい」と考えていた人が急に「仕事も収入もそこそこでいい、休みがとれて安定しているほうが大事」と考えが変わることは想像しづらいです。

100%ではないにせよ、実際に働き始める前に、仕事観はある程度醸成されているのでは、というのが仮説の1つ目です。
では、どのような要因が仕事観に影響を及ぼすのか。

家庭環境の影響は大きいが、正の相関はあるか?

仕事観の醸成に影響を及ぼす要因として、まず思いつくのが家庭環境です。
身近に触れる家族はどのような仕事観を持っているのか、収入レベルはどれくらいか、どのような教育方針だったか等々…影響は大きそうです。

ただ、こういう家庭環境だとこうなる、と単純には言い切れないのではないかな、とも考えています。
例えば、「親が仕事に対してネガティブな感情を持っていて家ではグチばかり」という環境があったとしても、ある人は親同様に「仕事は面白くないものなんだな」と捉え、ある人は「グチばっかりの親がカッコ悪いから自分はやりがいを感じて働こう」と捉えるかもしれません。

このように、家庭環境による影響は確かにあるだろうけどそれがどのような影響かは結局のところ人による、ように思います。

仮説:努力した末の成功体験が豊富な人は仕事をポジティブに捉え、成功体験が乏しい人は仕事をネガティブに捉えやすい

今のところ私自身が一番しっくりきている仮説がコレです。

成功体験というのは何でもよくて、例えば「勉強がんばったらテストで良い点が取れた」とか「毎日素振りしたら試合でヒットが打てた」などなど。
こういった、自分が頑張ったことが結果として返ってきて、自分の人生は自分でコントロールできるんだな、と気づいた人は、仕事だって頑張れば何とかなる、とポジティブに捉えやすいのでは、と考えています。

ベンチャー/スタートアップに就職する人は仕事観がポジティブな人が圧倒的に多いと思いますが、ベンチャー志望の学生にいわゆる高学歴の人が多いのは、受験での成功体験がある分仕事観もポジティブになりやすいのでは、とも思っています。

 

そんな気がする、程度の根拠希薄な仮説ではありますが、備忘録として残しておきます。

 

(おまけ)

その人の仕事観が醸成された過程をヒアリングしてみたら面白そうですね。半生を語ることになりそう。
月に一度くらい、サシ飲みとかでやってみようかしら。

あなたの部下がまだ会社を辞めていない理由を言えますか

晴天の霹靂のごとき部下の退職

能力が高く、素直でやる気もある若手社員が自分のチームに配属された。しっかり育てて自分の右腕に、ゆくゆくは会社の中核に…と目をかけていたメンバーからある日突然辞表を提出された…。どうしてこれだけ期待も評価もしていたのに辞めてしまうんだ…せめて事前に相談してくれれば…そんな経験ありませんか?

でも、辞めた本人からすれば、「逆に何で辞めないと思ったんですか?」という気持ちかもしれません。

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優秀と思っている人ほど、辞めるリスクが高い

当たり前の話ですが、社内で活躍している人ほど社外でも活躍の可能性が高く、働く先の選択肢は多いはずです。

また、活躍している社員は自分に自信を持っているので、働く環境が変わってもやっていけるだろう、と転職をポジティブに考えています。

ですので、期待をかけている人ほど辞めていく、のはある種当たり前なのです。

メンバーが自社で働く意義と理由を把握する

そうはいっても、期待をかけている社員に急に辞められたら困ります。

仕事観・キャリアプランはそれぞれですので、辞められないようにする万能薬はないのですが、最低限、その社員が自社で働いている意義を把握しておく必要があるのではと感じています。

  • その社員がどんな仕事観を持っていて、将来どうなりたいと考えているのかを把握するため対話する
  • 社員の目指すキャリアを実現するために自社で働く意味/理由はどこにあるのかを一緒に考える
  • もし自社で働く意味/理由が薄いと感じられる場合は、代替で提供できるモチベーションは何かを考えておく

上記を日ごろから行っておくことで、少なくとも「青天の霹靂で辞められてしまった」という事態の多くは避けられると思います。逆に、もしメンバーが自社で働く意義を把握していない場合や代替で提供できるものがない場合、辞めていないのはたまたまであって、何かの機会があればすぐに辞めてしまう可能性があります。

ちなみに、キャリアパークの円満退職の退社理由ベスト3!気持ちよく仕事を辞める方法とはによると、建前の転職理由1位は「キャリアアップしたかった」で、本音の転職理由1位が「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」という恐ろしいアンケート結果が出ています。

ギクっとした方、メンバーと対話の時間を作ってみてはいかがでしょう?

ベンチャー企業から大企業へ転職しづらいという言説のカラクリ

ベンチャー企業から大企業への転職は難しい?!

大企業かベンチャー企業かで進路を悩んでいる学生と話をすることがあります。

その際によく耳にするのが、大企業→ベンチャー企業への転職は簡単だけど、ベンチャー企業→大企業への転職は難しい、という話。 

コレ、実際のところはどうなんでしょう。大手の人事だから大手への就職へ誘導させたい、ベンチャーの人事だからベンチャーへの就職に誘導させたい、というポジショントークを抜きにしてちょっと考えてみました。

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ベンチャー→大企業への転職が難しい根拠は?

この言説、驚くほどソースが出てきません。誰に聞いたの?と聞くといつも、「どこかの誰か(たいてい大手企業人事)が言っていた」となります。そしてその根拠を聞いてみると大体下記の3つ。

  • まずは大企業で基礎をしっかり学んだほうがいい
  • 大企業のほうがブランド力があるから転職に有利になる
  • (発信者の周りに)ベンチャーから大企業に転職した人がいない

大手で学ぶという基礎とはどんなもので転職時にどう活かされるのか、ブランド力で採用をするメリットは何なのか等があいまいだったりしますし、感覚的にもどれもピンときません。

事実としてあることだけで言えば、企業は新卒採用に比較して中途採用枠が少ない、というのはありそうです。

新卒では年間100名を採用する大手であっても、中途では年間10名も採らない会社や、そもそも中途採用自体を行っていない会社もあります。
採用される枠、という観点で見れば、確かに大企業への転職は新卒で採用されるのに比較して難しいとはいえそうです。

ただ、それは大企業→大企業の転職でも同じことが言えるのでベンチャー→大企業への転職が難しい理由にはなっていません。

ベンチャー→大企業は難しいという言説の正体

根拠があいまいで、感覚的には何となくおかしいような感じもしますが、そうはいっても確かにベンチャー→大企業への転職は難しいと思われている風潮がありますし、そういったキャリアの人にあまり出会わないような気もします。

ここからは根拠も何もない持論なのですが、この言説が広まっている最も大きな理由が、
ベンチャー企業で活躍している人は大企業に転職したいと思わない
からなんじゃないかと思っています。

ベンチャー企業で活躍できているのであれば、責任ある仕事を任されてやりがいを感じているでしょうし、実力主義で評価されて給与もそれなりにもらっていることでしょう。そういった人がわざわざ大企業に行く理由があまり見つかりません。
一方で、ベンチャー企業で活躍できておらず安定した大企業へ転職したいと思ったときに、活躍してないので選考で落とされる&そもそも大企業の中途の枠が少ない、という理由から中々転職できずにいる、ということが考えられます。

大企業/ベンチャー、活躍している/活躍してないで分けると下記のとおり。

大企業/活躍している…ベンチャー企業へ転職する人もいる
大企業/活躍してない...転職しない?
ベンチャー/活躍している...大企業へ転職する理由がない
ベンチャー/活躍してない...大企業へ転職したくても中々できない、したとしてもあまり目立たない

 

上記が正しいとすると、大企業→ベンチャー企業へ転職する人は活躍しているので目立ち、ベンチャー→大企業へ転職している人は活躍してないので目立たず、発信力もない = ベンチャー→大企業への転職は難しい、という流れでこの言説が成立しているのではと思っています。

結局はその人しだい

当たり前中の当たり前の話ですが、どんなハコの会社に入ろうがその先のキャリアがひらけるかどうかはその人の頑張り次第です。主体的に動いて濃い経験を積むことができていれば大企業でもベンチャー企業でも活躍することができます。

それであれば、濃い経験を積みやすいほうを選んでみてはいかがでしょうか(結局最後はポジショントークに)